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松山地方裁判所 昭和56年(わ)808号 判決

主文

被告人〓水孝行を懲役一年に、被告人元土肥堅安を懲役一〇月に、被告人浦川健一、同元土肥國俊、同和田佳弘をそれぞれ懲役八月に処する。被告人浦川健一、同元土肥國俊、同和田佳弘に対し、この裁判確定の日から三年間それぞれその刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人〓水孝行は、大阪府大阪市南区瓦屋町三番丁七番地に本店を置き、愛媛県松山市天山町一六九番に第一営業所を置く株式会社ジヨイフル和光の取締役会長、被告人元土肥堅安は、同会社の代表取締役、被告人浦川健一は、同会社の営業本部長、被告人元土肥國俊は、同会社の開発部長、被告人和田佳弘は、同会社の商事部長であるが、被告人五名は、共謀のうえ、同会社の販売する人工宝石の販売員募集に名を藉りて、いわゆるねずみ講を運営しようと企て、人工宝石の購入代金名下に一定額の金銭を出捐すれば同会社のサブ販売員と称する会員(以下S会員という。)となり、S会員が新たに自己の子会員として同様一定額の金銭を出捐する者二名(昭和五五年一〇月三一日以前は一名)を勧誘して加入させればエリート販売員と称する会員(以下E会員という。)に昇格する一方、右子会員は勧誘した会員に代替してその会員の直上先順位者であるE会員の直下の後順位者たるS会員となり、他方E会員に昇格してから更に一名以上同様の子会員を勧誘して加入させればこれを自己の直下の後順位者たるS会員とし、順次同様の方法で、連鎖して段階的に三以上(同五五年一〇月三一日以前は二以上)の倍率をもつて後続会員を無限に増加させ、S会員となる新規加入者には、いずれも人工宝石購入代金名下に四〇万円を入金させ、同会社において、この四〇万円のうちから、新規加入者を勧誘した者がS会員である場合には、そのS会員に販売コミツシヨン名下に一〇万円(税金と称して一割天引、以下配当金につき同じ。)、右S会員の直上E会員に管理コミツシヨン名下に一〇万円、右E会員の直上E会員にオーバーライド・コミツシヨン名下に一万円を、また、新規加入者を勧誘した者がE会員である場合には、そのE会員に販売コミツシヨン名下に二〇万円、右E会員の直上E会員にオーバーライド・コミツシヨン名下に一万円を、それぞれの指定する銀行預金口座に振り込み送金するなどして配当し、先に加入した先順位者が後続の新規加入者の支出する金銭から順次一定額の配当を受け、最終的には自己の支出した額を上回る金銭を受領することを内容とするE・Sシステムと称する同会社の金銭配当組織に基づき、同五五年一〇月一七日ころから同五六年六月三〇日ころまでの間、会員らをして新規加入者の勧誘に当たらせ、別紙一覧表記載〈省略〉のとおり、同会社のE・Sシステムに、S会員として、橋本幸四郎ほか三六四名(同表中番号65、331、360の各加入者、同123、317の各加入者はそれぞれ同一人)を加入させて、合計一億四七二〇万円を同会社に入金させ、同会社から各先順位者に対し前記のとおり配当金を送金するなど右金銭配当組織を主宰し、これを活動させ、もつて無限連鎖講を運営したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人五名の各行為は、いずれも刑法六〇条、無限連鎖講の防止に関する法律五条に該当するところ、右被告人らについては懲役刑のみで処断することとし、その所定刑期の範囲内で被告人〓水孝行を懲役一年に、同元土肥堅安を懲役一〇月に、被告人浦川健一、被告人元土肥國俊及び被告人和田佳弘をそれぞれ懲役八月に処し、情状により被告人浦川健一、被告人元土肥國俊及び被告人和田佳弘に対し刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑)

先ず本件犯行の動機、罪質、態様を見るに、本件は実質三六四名にのぼる多数の会員を加入させ、これらの者から総額一億四七二〇万円にのぼる多額の金員を集めたもので、大規模な計画的犯行であり、社会的影響も無視できないものであること、社会的経験の乏しい主として二〇代前半の若者に対し言葉巧みに話をもちかけて研修会場へ誘い込むやその射倖心を煽り立て、更に、「クロージング」と称する執拗且つ強引な勧誘を続けて会員となることを承諾させ、資金の持ちあわせのないかなり多数の者に対しいわゆるサラ金から高利で資金を借りさせたうえで入金させるなどし、しかも、昭和五五年一一月一日以後は判示のように新方式を採用して、会員を飛躍的に増やし、その結果加入した会員の大半が損失を蒙つているにもかかわらず、その損失を回復するための措置が何ら講じられていないことなどに鑑みるとその犯情は極めて悪質であるといわざるを得ない。しかしながら、会員の出捐は四〇万円が限度であつて、しかも会員の大多数は自己の金銭欲につられて加入した面もあり、いささか軽卒であるとのそしりを免れない。

そこで、以上の諸事情に加え被告人らの本件犯行において果した役割、利得額等の個別的事情を綜合勘案すると、被告人らは、いずれも、もと株式会社サンジユエリーの販売員であつたところ、その業績が思わしくなかつたことから、被告人〓水、同元土肥堅安の両名は同会社とは別個の会社を設立して無限連鎖講を運営して利益を得ようと企て、右両名が中心となり株式会社ジヨイフル和光を設立し、その余の被告人らがこれに追随したものであつて、以後被告人〓水は同会社の取締役会長、被告人元土肥堅安は同会社の代表取締役社長として同会社の実権を分掌し、同会社における最高責任者として本件犯行を遂行し、その利得額も最も多く、更に右両名は人工宝石の仕入れに伴う多額のバック・マージンを取得していたもので、その責任は重大であり、ことに被告人〓水はとりわけ企画面にすぐれた辣腕を発揮し、前記新方式を発案してこれを推進する等したもので、その責任は最も重く、右両名がいずれも本件犯行を深く反省悔悟している点を考慮しても、右両名について、とうてい刑の執行を猶予することはできず、いずれも実刑は免れないところである。しかし、その余の被告人らについては当初から被告人〓水及び同元土肥堅安らの指揮下にあつたもので、本件犯行に果した役割分担は右被告人両名に比較すれば数段劣り、また利得額も少くないとはいえ右被告人両名の半額にも満たないこと、いずれも本件を深く反省していることなどの諸点を考慮し、それぞれその刑の執行を猶予することとし、被告人らに対し主文記載のとおりの刑に処するのが相当と思料する。

よつて、主文のとおり判決する。

(福家寛 藤田清臣 佐藤陽一)

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